製品名称に数字を用いる意味
Apple Event 前の”噂”では、iPhone 17、iPhone 17 Pro / 17 Pro Max 加えて、今年は「iPhone 17 Air」が登場すると盛んに言われていた。しかし、実際に登場したのは「iPhone Air」であった。
そこで、まずは製品名称にナンバリング(世代や西暦等)を用いることのメリットとデメリットについて振り返ってみる。
- ナンバリングのメリット
どの年や時期に発表されたかが明白で、登場から日が浅ければ数字そのものが「真新しさ」として機能する
- ナンバリングのデメリット
登場から時間が経過している場合、逆に数字が古臭さ、型落ちを象徴してしまう
ナンバリングにおける上記のような側面を考慮すると、ナンバリングするかどうかは製品の性質やマーケティング戦略次第といえる。
iPhone Air は毎年更新されるモデルではない
もし来年秋にiPhone Airの後継機種が発表されないとした場合、来年のiPhoneのラインナップは以下のようになるだろう。(いわゆる折り畳みできるiPhone等を考慮しない場合)
- iPhone 18
- iPhone 18 Pro / 18 Pro Max
- iPhone Air
- iPhone 17
- iPhone 16e
この記事を読んでいるような方であれば、来年になってもiPhone AirがiPhone 17ファミリーと一緒に発表され、なおかつ搭載されたチップがA19 Proであることをきっと覚えているはずだ。しかし、大多数の一般的な顧客はそうではない。
来年秋以降、iPhoneの購入検討をする顧客の中には、上記のラインナップを見て、「iPhone Air はいつ出た機種なのか」と気になって調べる人と、そうでない人のどちらもいる。「Air」にナンバリングを用いなかったメリットは、この「そうでない人」に対して効力を発揮する。
わかりやすく言えば、iPhone Airの薄さやカラーに純粋に魅了され、購入しようか迷っている来年の顧客に対し、「そのモデルは去年iPhone 17と一緒に登場した1年前のモデルですよ」と(Appleにとっては)余計な一言をかけてしまうのが、「iPhone “17” Air」なのである。
来年になったとしても、iPhone Airという名称のおかげで、iPhone 18ファミリーのような第一線とまでは言わなくとも、少なくともiPhone 16eの数字から感じる「型落ち感」は出ずに済むだろう。
一方で、17という数字が含まれなかったことで、数字そのものが表現する発表直後の「真新しさ」の恩恵に与れないとも言える。だが、Airの実機を見て触って分かる明らかな薄さと、iPhoneに初めて「Air」の文字が採用されたことによる特異な効果によって、数字の恩恵に与れなかった影響は払拭されると個人的に感じる。
(そもそも、カメラの進化が主たる注目ポイントとなりつつある近年のスマートフォン業界において、単眼カメラのiPhone Airが毎年の更新を受けられるとは尚の事考えにくく、あるとすれば再来年と筆者は見ている。)
iPhone 16e は素晴らしいネーミングだった
ここまで読み進めた方には、「iPhone 16e も(恐らく)毎年更新されないけど、名称に数字が入っていて良かったのか」と疑問に思う人もいるだろう。しかし実はこの「16e」、ナンバリングにおけるメリットを享受しつつ、そのデメリットも克服した究極の名称なのである。
そもそもiPhone 16eは、実質的にiPhone SE(第3世代)の後継と呼べる機種である。SEからの命名規則は変化しても、SEのコンセプトである「(発表時に)最新のチップを求めやすい価格で」はしっかりと踏襲している。
iPhoneに機能が続々と追加され、比較項目が複雑化してきた近頃では、搭載されたカメラの数でiPhone全体の性能を評価する等の誤った見方が一般的に散見されるようになった。こうした現状の中で、「SEだから✗✗(悪い評価)」と頭ごなしに否定されているのを見聞きしたことが筆者は実際に何度かある。
「悪名は無名に勝る」とは言うものの、SEという名称には安かろう悪かろう的な意味合いが時間をかけて残念ながらついてきてしまったようにも思う。こうした背景の中、今年2月にiPhone 16eは登場した。
ここで、16とeに分けて、それぞれの持つ意味と良さを考えてみる。
- 「16」の良さ
登場からまだ日が浅いと言える来秋までは、この16という数字そのものが良さとして機能する。例えば、顧客には「まだ新しいのにこの価格で手に入るのか」と思ってもらいやすい。逆に今から1〜2年後には、「16はもう古すぎるから新しい18や19を買うか」と思ってもらうための導線として機能する。
- 「e」の良さ
数字の後に来る接尾辞として「e」を採用したことが初めてであり、これが「真新しさ」の根幹。それに加えてSEのコンセプトも引き継ぎつつ、SEの(悪い)イメージを払拭している。
こうしてiPhone 16eのことを振り返ってみると、iPhone Airの名称に隠れたAppleの戦略が見えてくる。
Air と SE / eの決定的な違い
iPhone 16eとiPhone Airが決定的に異なるのは、以下の2点である。
- 何年もの間、ハードウェア的な更新を受けずに売られ続けるか否か
- 製品ラインナップの第一線を張れるかどうか
SEの時代も含めると、eは平均して3年もアップデートの間隔がある。この予め設定された間隔の長さこそが、ナンバリングのデメリットを逆手に取っている。
iPhone Airは、価格と搭載チップ(A19 Pro)をiPhone 17と比較するだけでも、iPhone 17 Proと共に第一線を張れるだけのポテンシャルを秘めていると判断できる。このようなSEのコンセプトとはまったく異なる製品が、3年もの間放置されるとは思えない(1〜2年周期の更新と考えるのが妥当だが、少なくとも来年の更新はないだろう)。
Appleが、「iPhone 17 Air」ではなく「iPhone Air」とした理由は、来年以降のラインナップにおいて数字による「型落ち感」を避けるためである。数字の持つ魅力的な「真新しさ」をあえて捨てた代わりに、Airのような圧倒的な薄さにProのチップという新たな冠がその役割を担っている。
「数字を活かしつつ、経年による古さも武器にするiPhone 16e」とは対照的に、iPhone Airはまったく新しい戦略を取っている。この違いがこの記事によって読者の方にも伝わっていれば嬉しい限りだ。
Karagana